2012年12月27日木曜日

【雑感】今年最後のプロジェクト


約一ヶ月程度はいっていた案件の中間報告会が今日終わりました。
売上高兆円超えクラスの所謂大企業の案件は初めてでしたが、今までコンサル業界でこういう事あるよと聞いていた色々なことが起きました。

このくらいデカイ企業の本部長クラスの人は、本気で自社の方向性に悩んでいるし、大まかな問題点は把握しているけど、ここぞと言う意思決定が出来ない(決断するに足りる分析、洞察などが足りていない)状況にあると言う事を実感しました。

また、何回かの経過報告会の中で経営企画の方が、私達があなた方に求める事は『当社の常識が業界の非常識となっているポイント』(=勝ち組の勝ち方から乖離してしまっている所)を第三者として指摘する事と言ったことは、働き出す前からコンサル業界あるあるとして聞いていた事であり、ある業界に所属しながら自社を客観的に評価することは本当に難しいんだなあと実感しました(消費者として、うはッwwwこんな製品いらねーって出す前に気づけよwwwとか言うのは容易いですが…)

自分の事に引き戻すと、徐々に市場動向の分析や競合財務分析など計数的なセクションをザラッと投げてもらえるようにはなってきています。とはいえ、まだまだ数値のミスや推計の仕方の詰めなど反省点ばかりで、特に一個ランクうえの若手の先輩には細部にわたってフォローをして頂いて頭が全く上がらなすぎて地面にのめり込んでいる程です。

研修が終わって働き出してから凡そ半年程度が経過しましたが、ここいら辺で何が出来るようになったのか、何が出来ないのか、何をしたいのか、その辺を年末に棚卸出来たらと思います。

2012年11月23日金曜日

【定点観測】5年後に何をしていたいかをコンサルタント一年生に聞いてみると

「5年後に何をしていたいか」

会社の飲み会で本気の質問か酒のツマミか分からないが上司に聞かれる事がある。メンターとの面談でも形式上必要なのか私のメンターが個人的に聞いて来た事なのか分からないが、同様の問いかけを投げかけられる事がある。いずれにせよコンサルタントとは、この問いかけが大好きな様だ。

私の現在の応えは「目の前の事に手一杯でそんな事を考えるゆとりがない」が正直な所だ。飲みの席でも上司には正直にそう伝えた。「なんだつまんねー」と言うリアクションも予見していたが、意外なことに上司の反応はコンサル一年生はそんなもんだよなと言う同意であった。

実際5年後に何をしたいかを今持てていない事は、あまり悲観していない。昔から自分にある傾向だが、数年後にしたい事は何となくふっと降って来て、何となくその通りやって来てたから、今もまたそれが降ってくるのを待てばいいと思っているからだ。それが、一年以上降ってこなかったら仕事に流されている事だろうと判断して、その時に考えればよいと思う事にした。いずれにせよ、今は目の前の事で学ぶ事が多すぎるし、それを吸収して走っているのが単純に楽しいのだ。

長い目で見てやりたい事はぶれていない様な気がする。上司と話をする中で再びそれを思い出して、今はいいけど、もう半年したらまた考えてみようと言う気持ちにもなった。

物事の進め方の王道は、適切な目標を設定し、バックワードインダクションに現在、これからの行動を計画し粛々と進めて行く事の様に思う。

そのうち、またその軌道にもどるだろう。

2012年11月7日水曜日

BI市場雑感

BigDataがバズワードでにわかに盛り上がってきている昨今ですが、それに関連してBIツール市場の動向も最近ささっと見た範囲で雑感を吐き出したいと思います。


■全体の概況としては…

外資系を中心に、2007年前後ERPベンダーやコンピュータ関連の会社が相次いでBIツール関連の企業買収を進めており、従来は分析の専門家向けの単品製品だったBIツールが、企業の基幹システムの中で財務、営業、マーケティングなど経営の多岐にわたり分析機能を提供する製品へと位置づけを変えてきているそうです。

事例として分かりやすいのはIBMのSPSS買収でしょうか。
統計や経済学関連の人は御存知の方も多いでしょうが、SPSSは従来統計分析をするためのソフトウェアで、研究関連を中心に使われることが多い印象を持っていました。IBMのSPSS買収も、ビックデータとか言われるようにビジネスに関連して増え続けるデータの山を統計的に分析し、意思決定に役立つソリューションを提供するために買収したものと思われます。

こうした個別の分析機能を提供しているBIツールの買収が進んだことで、BIツールは基幹系システムとの連携の中でデータの分析・レポーティングに使われることが増えてきたといえます。


もう一つの流れは、ハードウェアの性能向上や分散処理技術の発達が挙げられます。

日々蓄積されるデータは構造化データだけではなく非構造化データまで含め爆発的に増えているということは周知の事と思いますが、サーバやストレージと言ったハードウェアの性能向上や、分散処理技術の発達によって、従来よりも短時間により大きなデータを処理する事が可能になってきておりBIツール、案外つかえるかも?と言った流れだそうです。


■とはいえ…


一点目で触れたBIツールベンダーの買収の話も美味しい話だけではなく、買収側の既存基幹システムとのデータの整合性などイマイチ連携がうまくいっていないと言う話も聞くわけです。これとは別に、IBMってSPSS買ったはいいけど今どう活用してるっけってのは、私が知らないだけだとは思いますがイマイチはっきりしていないと言う印象です。

さはありながら、大型買収案件が相次いだ2007年あたりからカレコレ5年ほど経過してパッケージ同士の連携も進んできているでしょうし、ビッグデータブームと併せ今後の方向性はどうなんだっては話です(要調査


二点目で触れた処理速度、処理キャパの話も話としてはそうなのですが、分析する武器はあれど活用できないとはままある話で、BIツールを導入した企業のアンケート調査では、事前に期待したよりも経営の意思決定に役立てる事は出来なかったなんてアンケート結果はまま目にするものです。

実際のところ、大量のデータをどの様に分析するのかと言ったビジネス面での人材・スキル不足や、統計的な手続きをきちんと行える人材不足(BIやビッグデータを担当するシステム関係の部署の方は、システムの事には詳しいかもしれないが、統計の専門家ではない事はままあるでしょう)など活用面に課題は山積されている様子です。


とまあビッグデータに関連して結構あつい分野であるものの、課題やなんやを見ていくとあーやこーやあるなと言った感じです、興味深い市場ですが。

2012年9月14日金曜日

競合調査のきっかけとしてのM&A事例調査




「ちょっとX社の戦略簡単に調べておいて」

コンサルをやっているとこうしたお題が降ってくる事があります。そのために過去のでかいM&Aの事例を調査するのはひとつの方法と言えるでしょう。額がデカイほど、戦略上どうしても実現したい事を表している可能性が高いからです。


(X社の戦略の移り変わりを知りたいから)Y社買収の時の買収目的調べておいて」

このような形でお題が降ってくる事もありますが、()の中を言ってくれるとも限りません。下っ端の私が犯してしまったミスは、既にご想像の通り、買収時のプレスや記事を確認し


「買収目的は、XX事業やYY事業の強化とZZな顧客の獲得です!」

「で?」

「(ドッギャーン買収目的調べろ言うたやぁあああん)」


というものです。



ここで、私が答えるべきだったのは、買収の目的はこれこれこれで、それって満たされていない戦略を充足するために行われた訳で、そこから当時の戦略がXXであると読み取れます、と言う事でした。


「買収目的を調べてって言ったけど、それってどのスライドどんなメッセージを出したい為にその情報を収集してって頼んだか把握していますか?」


単なる作業者になっちゃ駄目だし、もっと意図や論点ってのを意識しないとダメだなあと課題は積み上がる毎日です。

2012年4月7日土曜日

Why nations fail? 発売記念パピコ/(^o^)\ 制度は豊かさを決めるんだ!


Acemoglu  と Robinson が 三月に Why nations fail? " を出版した。

『各国の長期的な経済発展の違いは本質的に何によって齎されるのか?』
彼らは制度と言う観点からこの十年間、以上の問いに答えるべく研究を積み重ねてきている。その研究成果を一般向けの書籍として纏めたのがこの本だ。

経済成長モデルはソローの新古典派成長モデルから始まり、最適成長モデルへと精緻化が進み、90年に入る頃には長期的な成長要因である技術革新のプロセスを内生的に成長モデルに組み込む事となった。

こうした成長モデルは『物的資本蓄積するから』『人的資本蓄積するから』『技術革新が活発に行われるから』経済成長をすると言うことを特定した。実証的にはバロー流の新古典派成長モデルの推計を始め、こうした基本的な事実を実証的にサポートする論文が山の様に書かれることとなった。


さて、どうやら物的資本や人的資本が蓄積され、活発に技術進歩を行えば高い確立で『離陸』出来るらしい。では、『なぜ、人的、物的資本投資を行わないのか?技術革新を行わないのか?』と言う疑問が生じる。

確かに、投資が過少になる均衡が生じる複数均衡モデルや市場の失敗を取り込む事でこうした事象を説明するモデルは山のようにあるが、彼らが着目したのは『制度』だ。『制度』こそ市場における行動を規定し、豊かさのパフォーマンスを決めると言うわけだ。物的、人的資本投資、研究開発投資を行えば成長することは分かっているが、制度が悪いからそうした行動を行うインセンティブを欠いていると言うのが彼らの主張だ。

と言うわけで次回は具体的にどんな研究をしたのか 有名な2001年の実証論文をレビューしてみよう。具体的には、制度の代理変数を説明変数に実質一人当たり所得を説明できるかトライした論文だ。例えば、こんな感じに。



(こちらは、各国の2005年の実質一人当たりGDPと Park (2005) の特許に関する制度指標を元に筆者作成)

果たして制度はどの程度、各国の所得格差を説明するのか?
制度を用いて単純にOLSをかけていいのか?
制度を説明変数に加えた時、これまで重要とされていた変数の効果はどうなるのか?

面白いトピックが盛り沢山だ。

2012年4月5日木曜日

100年予測を読んだった





地政学的な分析がどの様なものか気になったので手にとってみた。

本書は地政学的な分析に基づき21世紀の百年間でどの国が覇権を握り、どの国が超大国に戦いを挑むのかを示している。

本書が示す結論は、
・21世紀の間は相変わらずアメリカが世界の覇権国であり続ける事
・トルコと日本が覇権国アメリカに(宇宙!)戦争をしかける事
・中国は張り子のトラであること
が挙げられている。

人口動態やそれに基づく長期的な経済成長(国力)の予測、地理的な要因(ある地域の覇権を得るには陸海空、どういった要所を落とすべきか守るべきか)によって、それぞれの国の長期的な行動を予測している。

制海権が如何に重要なのか、このハイテク戦争の時代に案外地理的要因は効いて来るのかと言った観点は今まで持ち合わせてなかったため新たな気づきといえるが、出てくる主張の一つ一つに疑問を呈したく成る。

これはどんな理論に基づいているのか、実証的にサポートされているのか、そもそも実証の俎上にあげられる仮説になっているのか…

全体として言いっぱなし感が全開であり、「これは長期の予測であり、少々の誤差は瑣末なものだ」と言う正当化ではとてもカバーしきれないように思う。また、後半の宇宙戦争の下りにさしかかると最早読み続けるのが苦しいジョークになってくる。


やはりこう言った大きな風呂敷を広げず、問題・仮説を丁寧に分割し、実証的な結果を積み重ねていく事が肝要なのかと改めて感じさせられた点では役にたったと言える。

2012年4月4日水曜日

ペースとデバイス


働き出して二日が経ちました。と言ってもまだまだ退屈なオリエンテーションばかりで働いていると言った感じはありません。二日通ってみて通勤の具合も把握し生活のサイクルも分かってきた様に思います。

新しい環境に変わって取り組むべきは勉強をする場所、勉強をするペースを確立する事がでしょうか。多くの人がそうである(そのように願ってますが)様に、僕も大概怠惰であり何かしら自分を縛り付けるコミットメントデバイスか強いインセンティブがないと勉強できないものです。

まずは研修のこの一ヶ月間、どこでどの時間帯で勉強する時間を捻出し、気持よく取り組めるかさっさと考えてしまわないとなと感じてます。
ちなみにこの二日間は、帰宅後の自宅では勉強など出来ないというこれまでの生活で繰り返しテストされてきた実証的な結論を補強することなりました。生活が変わったところで構造変化はなかったようです。




大学院の頃は大学の近くのスタバを頻繁に利用していました。研究室の日当たりが悪いことや空気が淀んでいる事からスタバで勉強することが非常に多かったです。そのうち、刷り込みが完了しスタバに行くと勉強モードになると言う風になりました。

「勉強するのにスタバ通ってて金かかるねコーヒーなら研究室で安く飲めるよ!」とは良く言われたものですが、対価はコーヒーではなくこの刷り込みに払っていたのです。怠惰でdiscount rateも高めな私のような人間は勉強するにもより多くのコストがかかるのです笑。

どこかココに行くと勉強モードに変われる場所と言うものを早く作ってしまうのが良いって事でしょうね。

経済成長のミステリー



経済成長理論とその実証研究、ならびに近年より研究が進んできている不平等や制度と経済成長の関係についてサーベイを行っている。タイトルのからして以下にも一般図書の様だが、実際は先行研究のサーベイとなっているので経済学専攻の人が見た方がいいだろう。

この本は経済成長理論の発展と同じように章だてされている。

技術進歩を外生とおいた初期の成長理論のサーベイと実証的結論(条件付き収束、絶対収束など)を論じる。次に生産性と内生的成長理論を俯瞰する。最後の3つの章は、開放体系における成長理論、不平等、制度で構成される。

開放体系の成長理論では、技術の模倣やスピルオーバーについて紙面を割いている。不平等の章では、特に所得の分散が大きくなることが経済成長にどのように影響するのか実証研究をサーベイしている。最後の制度と経済成長は2000年以降、Acemoglu や LaPortaらが研究を進めている分野だが日本語のサーベイは少ないので有用だろう。


本書の出版は2004年であったのでやむを得ないが制度と経済成長に関する研究は理論実証ともに2000年代後半も急激に増えている。その意味ではこの本でカバーされていない範囲は広い。例えば、所得格差と制度の関係を論じる研究はAcemogluらが2005年あたりから進めているし、開放体系におけるスピルオーバーと制度の関係はHelpmanが行っている。また、当初は制度と経済成長に関する実証的なファクトを積み上げる研究が多かったものの制度と成長に関する理論研究も精力的に行われている(例えば制度の経路依存性に関する理論的な根拠をAcemogluは書いている)。


とまあ邦書がまだまだ少ない分、きっかけとしては有用だが扱っている範囲は狭いなと言った印象。
また既存研究のサーベイもボリュームやチョイスを見る限り Handbook of Economic Growth でいいのではないかと 思うところもあり立ち位置が微妙な本だなあと言うのが正直な感想。

2012年3月27日火曜日

Hermesの「ナイルの庭」はどの様に生まれたか

前回は、ジャンクロードエレナの本のレビューを行った。今回はその続き。
芸術と産業としての香水:ジャン・クロード・エレナ(Jean Claude Ellena) のお話

以下の一節は、エレナが一つの香水を作る時にどんな信念を持ち、どの様にインスピレーションを得ているのかがよく表されている。多くの調香師がそうであるように、彼も各地への旅行と自然からインスピレーションを得ることが多いようだ。

私は匂いの剽窃者、盗人、そして掠奪者だ。自然は私にとっては、きっかけ、出発点だ。しかしインスピレーションの源や創造の息吹ではない。太陽は昇り沈むのは、どこであろうと美しい。どこからどのように見るかというだけの問題なのだ。私は香水のなかで、お茶や小麦粉、いちじくを自然のままに再生して人を驚かせようとはしない。香水をつくるとは、匂いを解釈し、記号に変換することである。この記号が意味を伝えるのだ。(P69)

こうした香水作りの一つの例として、彼が手がけたエルメスの香水があげられている。


2005年、エルメスの「ナイルの庭」のテーマを選んだのは、アスワンのナイル川のなかの島の庭を散歩しているときだった。マンゴーの並木道、五月。マンゴーの木の枝は青い果実の重みでたわみ、果実が手の届くほど低く垂れていた。ひとつ、実をもいだ。花床から透明な乳液があふれ出た。鼻に持っていった。匂いに魅了された。樹脂、オレンジの皮、グレープフルーツ、にんじん、オポポナックス、杜松、酸味のある匂い、強い匂い、優しい匂いなど、匂いのイメージがあふれ出てきた。抗わず、感覚を愛撫されるままに、匂いを自分のものにする。この喜びと感覚を、私と一緒にいる人々と分かち合いたい。こうしてテーマが決まった。(P70)

この文章からも匂いたつ様だ。ナイル川のマンゴーの青い果実からインスピレーションを得たようだが、その一つの匂いから非常に多くの着想を得ていることが分かる。何よりこの文章だけでも、彼が作った香水をどうしてもかいでみたいと思わされた。と言うわけで、



この庭を、紋切型ではない方法で物語りたかった。青いマンゴーの匂いが記号となり、ナイルの島の庭の象徴となった。あとになって、エジプトではこの果実のたまに年に一度のお祭りがあることを知った。(P71)

新宿の伊勢丹に行って実際に匂いを試してきた。彼はエルメスで既に庭シリーズとして4作品を出しているが今回はナイルの庭と四作目の屋根の上の庭を試してきた。ナイルの庭は、トップノートはグリーンマンゴーとロータスフラワー、ミドルはイグサ・シカモウッド、ラストノートはインセンス・シクラメンウッドと言う構成。

節度ある甘さとグリーンマンゴーの青い匂いからユニセックスな印象もある香水だった。家に帰ってきて匂いをつけてもらった紙を再びかぐと、パウダー系の香りが際立っていたが心地良い甘さだった。


匂い自体も素晴らしいものの、こうした創作の背景、ストーリー付けも香水という製品を考える上では重要な要素であると体感できた。単に匂いだけを与えられてこうした着想をr得られるほど消費者の多くは感受性は豊かではないのだ。

■香水が芸術たるには

香水がひとつの完全な芸術表現のかたちとして認められるには、批評が不可欠である。ただ調香の原料を明かし、列挙して、描写するだけではない。料理のレシピーを読んだだけでは、完成した料理の味を舌で味わえないのと同じことだ。そうではなくて、香水を、その表現、独創性、クオリティー、私が文体とよぶ「香水の書き方」で、判断するのだ。文体こそ、香水を、それを調合した調香師から区別するものである。こうした批評を受けて、調香師は香水作りをたえず見直すことになる。市場では、あらゆるブランドが他のブランドと競争せざるをえない。つかのまの状態にすぎない目新しさよりも、差別化のほうが重要になる。差別化によって、ブランドの永続性も保たれる。(P91)

芸術たるには生産者だけではなく健全な批評家が必要だろう。評価をする上では、それを表現する語彙が必要になる。これが既に確立されている分かりやすい例はワインだろう。どうやら香水の批評に関してはまだこうした共通語彙が浸透しきっていない様だ。良質な批評と競争にさらされることで、より独創的で美しい香水がまだまだ現れる余地があると考えるとまた楽しそうだとも言える。

芸術と産業としての香水:ジャン・クロード・エレナ(Jean Claude Ellena) のお話


先日、調香師ジャン=クロード・エレナの本を読んだのでそのレビューをした。
調香師というプロフェッショナルな世界:ジャン=クロード・エレナを知ってるか?
図書館から借りてきた本で返却が近づいてきたので、気にった箇所を抜粋して振り返ってみよう。

この時代、高級香水の世界は、直観的な商品化、香水名と香水そのものに対する信仰、限定生産というやり方から、「需要」のマーケティングへと移行した。直観的な商品化の特徴は、ライフスタイルに応じてターゲットにする社会階層を選ぶことである。「需要」のマーケティングでは、競合製品、市場、文化・経済・社会環境を分析する。陶酔、幻想、パッションといったものを記号やシンボルのかたちに具体化して、欲望の対象をつくる、これがマーケティングの戦略だ。(P19)

「この時代」は1970年代を指す。最初の章では、産業としての香水がどのように発展してきたかが振り返られる。19世紀末の香水は、バラやジャスミンと言った実在する匂いの単なる模倣に過ぎなかったが、徐々に人々の「需要」に応じて、ライフスタイルに応じて、より複雑でイメージを掻き立てられる香水が作られるようになって来たことが分かる。

ひとつの素材のクオリティーのおかげで、ひとつのフレグランスが独創的になるということはあるかもしれない。だが、いずれにせよ、「美しい」ジャスミン、「美しい」バラ、「美しい」合成分子が美しい香水をつくるのではない。香水の美しさは、原材料の足し算から生まれない。原料や素材を理解し、使い、並置し、そして原料や素材に自分を再現させる、そこから、香水の美しさが生まれる。(P48)

「美しい」原料を使ったからと言って「美しい」香水が出来るわけではない点は、「美しい」染料を使っても「美しい」絵画が出来る訳ではない、「美しい」音を奏でる奏者を並べても「美しい」音楽が生まれる訳ではない点と共通だ。そこにこそ調香師、画家、作曲家の価値がある。この本の中でエレナは「匂いの作曲家」たりたいと書いているがまさにその通りだ。

この本の中では、彼が新たな香水を作るときにどの様に着想を得、どういった考えに基づいて香水を想像しているのか、エルメスの「庭シリーズ」を引き合いに説明している。少し長くなったので、これに関しては次回に回そう。

Hermesの「ナイルの庭」はどの様に生まれたか

2012年3月26日月曜日

大学院を修了し

前回の更新から早ひと月。この間、新居への引越しなどでバタバタし、あっという間に一ヶ月ほど経過してしまいました。そうこうしている間に先日大学院の修了式を終え、修士課程を修了することが出来ました。結果的に博士課程には進学しませんでしたが、得るものが多い二年間だったと思います。

修士課程まで進学して民間に出るのであれば、抽象的で実務には役立たない経済学なんて専攻せず、ロースクールやMBA、会計職大学院など直接的に役立つ分野に二年間を投じたほうが懸命だったのではと思う方も多いでしょう。コンサルティング業界なんてものに進むなら尚更でしょう。

しかしながら、こうした抽象的な(実際には統計的な分析も行うので現実に則したものですが)分野だからこそ、そこで身に付けられる考え方は適用範囲が広く頑健で陳腐化しにくいものだと感じています。
学位記授与式で研究科長も同様な事を仰られていました。法律や会計、経営学が研究対象としているもの全てを対象とするのも方法論で定義される経済学の特徴でしょう。ある社会現象が発生するそのメカニズム自体を対象とする点、最適を定義し一貫性を持って強いロジックを作れる点を強調するあたりは流石にミクロ経済学者だなあと感じました。




僕の周りには研究者としてやっていくと決心しきれないために大学院に進むことを迷っている人がそこそこ居ます。そう云う人は、二年間の学費をファイナンス出来るなら進学してみてはどうだろうかと思います。なぜなら、進学してみてこそ研究者を目指す道がどれほど大変かも実感するでしょうし、人によっては学部の段階で思っていた以上にのめり込む人もいるでしょう。修士の段階ならある程度の大学院であれば、今の日本の労働市場では博士ほど致命的でもありません。

ある学問を学ぶときにそれが役に立つかどうか、随分矮小な話をしてしまった感もありますが、シンプルにもっとこの分野を勉強したい!と言う風に思えたことが進学の一番の決め手だったのかも知れません。その気持を汲みとって進学を許してくれた両親に感謝したいと思います。

さて、四月からは全く違う生活が始まる訳ですが一体どうなる事やら。

2012年2月22日水曜日

調香師というプロフェッショナルな世界:ジャン=クロード・エレナを知ってるか?



ジャン=クロード・エレナと言う調香師を知っているだろうか?2004年からエルメスの専属調香師を努めている有数の調香師だ。エルメスの専属調香師となる以前もエポックメイキングなフレグランスを数多く手掛けてきている。ちょうど彼の本を手に取ったのでレビューしてみよう。




ひとつの素材のクオリティのおかげで、ひとつのフレグランスが独創的になるということはあるかもしれない。だがいずれにせよ、「美しい」ジャスミン、「美しい」バラ、「美しい」合成分子が、美しい香水をつくるのではない。香水の美しさは、原材料の足し算からは生まれない。原料や素材を理解し、使い、並置し、そして原料や素材に自分を表現させる。そこから、香水の美しさが生まれるのだ。


この本では彼が香水を作る時にどういったモノからインスピレーションを得、どういった信念をもって調合しているかを垣間見る事が出来る。本人も形容しているように調香と言う創作活動が作曲に近いものだと強く感じた。馴染みの香水にどのような背景があるのかを知ることでより親しみを持つことができるようになるだろう。

例えば、彼が2003年から手掛けているエルメスの庭園フレグランスシリーズ((『地中海の庭』、『ナイルの庭』、『モンスーンの庭』、『屋根の上の庭』)はどんな香りかすごくかいでみたくなった。





さまざまな分析のパラメーターのなかから、どのパラメーターにするかは、ブランドのターゲット市場の望むプロフィールに合う理想的なダイアグラムの香水をつくりあげなくてはならない。調香師は、さまざまなパラメーターに従って匂いを選び、あるいは省きながら「カーソル」機能を使って、調香していく。
こうして調香師は、製品開発するうえでの繊細な個人的判断と創造的方法からは遠ざかることとなった。
(このような)「良い」香水は、すぐその製品とわかり、驚きはもたらさない。瞬時に、同化するように受け入れられる。



もう一つ面白い点は、香水を取り巻く競争環境、マーケティング戦略と香水の関係の変遷や知的財産権の問題と言う事に言及している点だ。
マーケティング戦略に従い多くの人々にうける「良い」香水を作るという事と真に独創的な作品を作るということのトレードオフに言及しているが、これはマーケットインかプロダクトアウトかと言う最近の議論とまったく同様だ。
また、香水のレシピに関してまだ知的財産権がきちんと確立していない点に関してはなかなか驚いた。香水の本場フランスの判例では、音の商標と異なり、匂い商標(marque olfactive)は、それが図案的に表現することが不可能であり、またそれ自体で権利者の商品を他社の商品と識別する力も持たないという理由から、認められていない そうだ。こうした香水の知的財産権の問題に関してはどうやらいまだ進行中の問題なようだ。





惜しむらくは訳がいまいちな点でしょうか。とは言え調香師と言う普段馴染みがないプロフェッショナルの世界を垣間見る事のできるこの本の価値をそれほど下げるほどでもない。

2012年2月19日日曜日

【Macroeconomics編】ふ、ふつくしい!!経済学のテキスト表紙まとめ

経済学の洋書のテキストは表紙がとても綺麗なものが凄く多い。買ってみたもののあまりに難解で挫折したが眺めているだけでウットリ、そんな経験はないだろうか。わたしはない。

そんな見ているだけでも楽しい経済学のテキストの中から今日はマクロ経済学編をお届けしよう。他にも何かオススメがあったら教えて下さいな。

【1】Benassy "Macroeconomc Theory"

こちら
のっけから印象派の絵でも思い出す様なテキスト(いや、美術に疎いわたしが知らないだけでれっきとした美術品の可能性が)ちなみにBenassy先生は確かフランス人なのでそんな雰囲気が。

【2】Benassy "Money, Interest, and Policy"
コチラ
Benassy先生と言えば Non-Ricardian Economy におけるDSGEを扱ったこちらのテキストの表紙もお気に入りだ。ちなみに財政の発散とか扱ってるのでトピックとしてはホットかも?

【3】Scarth "Macroeconomics"
コチラ
いかにも勉強する気を削ぐようなこの表紙は一体。。

【4】DeJong "Structual Macroeconometrics"
コチラ
素敵な表紙だがタイトルとの乖離感が甚だしい逸品

【5】Barro "Macroeconomics"
コチラ
Barro御大の学部向けテキストだ。中々綺麗な表紙で気に入っている。

【6】Barro "Economic Growth"
コチラ

Barro御大と言えばこの成長論のテキストも忘れてはならないw

【7】LS "Recursive Macroeconomic Theory"
コチラ
モダンな印象の表紙がクールだが内容もモダンで投げ出したくなる人が続出する定番テキストだ。

【8】Bagliano "Models for Dynamic Macroeconomics"
コチラ
個人的にこれが知っている中でいちばんカッコイイって思ってる異論は受け付けている

【9】Wickens "Macroecomics"
コチラ
赤と青の対比が美しいこちらのテキストも中々好きだ。

【10】Galor "Unified Growth Theory"
コチラ
成長や開発の大家Galorのテキスト。何となく成長論のテキストってこう云う風味の表紙が多い。ちなみに読んだことがなかったので是非読みたい。

【11】Bewley "General Equilibrium, Overlapping Generations Models, and Optimal Growth Theory"
コチラ
Incomplete market の研究でもおなじみBewley先生のテキストは内容と中身の乖離は少なそうだw

【12】Michel "A Theory of Economic Growth: Dynamics and Policy in Overlapping Generations"

コチラ
Benassy先生といいフランス人の先生のテキストってこれなんだねw
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そんな訳でマクロ経済学編でした。何か気に入った表紙はありましたかね?

2012年2月18日土曜日

不買運動は児童労働を減らすのか?

と言うタイトルの論文を発見したので簡単に紹介しよう。
Journal of Development Economics 2009
Volume 88, 2009, 217-220
"Is product boycott a good idea for controlling child labor? A theoretical investigation"
Kaushik Basu and Homa Zaghamee
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0304387808000850
途上国の児童労働によって生産された製品を買うのは控えようと言う不買活動は先進国を中心に度々目にする。彼らは児童労働削減を訴えかけて不買活動を行っている訳だが、この不買活動は本当に児童労働を削減する効果があるだろうか?

 この論文は比較的リーズナブルな仮定のもと、児童労働によって生産された財に対する不買活動は児童の労働供給を増やしうる事を理論的に示している。

児童労働を投入して作った製品A(例えば、ウズベキスタンの綿花なんかかな)と児童労働を投入せずに作った製品Bがあるとする。一部の人々が綿花Aに対して不買活動を行った時、綿花Bの価格は相対的に上昇するだろう(綿花Aの価格が相対的に低下)。

この時、綿花Aの生産に携わる家計がもらえる賃金は下がってしまうだろう。しかしながら、綿花Aの生産に従事している家計にだって最低限食ってくだけの賃金ってものが必要だ。しょうがないから何をするかって、より低い賃金でより多く労働供給することで最低限食ってくだけの金を稼ぐしかなくなるのだ。そのため、児童労働によって生産されている財に対する不買活動は自動の労働供給をより増やしてしまう事が有りうるってわけ。

http://foreignpolicyblogs.com/2008/01/28/uzbek-cotton/

4ページほどの短い論文でシンプルなロジックなのでそんな気もするんだけど実証的にはどうなんだろうと思うのが自然な感想だろうか。

少なくとも児童に労働供給させずに家計が生計を立てられる様な仕組みを考えたり、児童に労働させるよりは人的資本投資した方がリターンが高くなる様な環境を考えない限りは不買活動をしただけでは児童労働は減りませんよってのはある程度納得感はある。

そもそも児童労働を減らすべきかどうかはまた別のトピックではある。

2012年2月16日木曜日

XX学って役に立つの?



「XX学って役に立つの?」とはtwitterでもまま目にする主張だ。肌感覚で言うと、こうした主張の殆どはそのXX学に対する理解不足から生じている。

学部で学ぶミクロ経済学を例にとってみよう。学部の講義でサラッと齧っただけで社会とやらに出ると確かに「役に立つの?」となるかも知れない。色んな理論はよりシンプルなものから始め、徐々に複雑なモノが教えられる。物理だと最初に摩擦0の世界を想定するだろうし、ミクロ経済学だと完全競争市場から始めるだろう。しかし、こうした世界は現実の世界とは程遠い(様に感じるだろう)から、役に立つのか分からなくなる。こうした理論は物事の仕組みを単純化して理解を促すし、理想的な環境とはどんなものかと言う物差しを与えてくれる。確かに現実にそぐわ無い仮定に立脚しているかもしれないが、これで現実をうまく説明し切る事が出来ると考えている人も少ないだろう。

より上手く現実を説明したければ、実は役に立たないと思っている人達はもっと先まで勉強しなくてはならないのだ。



現実の世界には独占や寡占が存在する。それを分析したければナッシュ均衡を始めとするちょっとしたゲーム理論の概念を覚えなくてはならない。研究開発と技術進歩、ならびにそれらに牽引される経済成長を分析したかったらちょっとした最適制御理論を勉強しなくてはならない。

そう!ある種XX学に懐疑的な彼らこそ彼らの言う『現実』と言うものを上手く説明するためには、もっともっとXX学を学ばなくてはならないのだ。ある意味で『XX学って役に立つの?』と表明する事は『わたしはその分野に関して無知に近いです』と表明する事に近い。

IOの専門家のVarian先生なんてGoogleで働き出して久しいし、マイクロ実証のスター研究者 Bajari も休職してAmazonで働き出すみたいだ。 統計もしくは統計を応用する周辺分野で博士号を取得したひとの賃金もアメリカにおいては上昇してきている。みんなが大好きな apple にだって競争政策や独占・寡占を専門とするエコノミストがいるかもしれない。

ある学問を『現実に役立てる』には、相当な人的資本投資が必要なようだ。でも、もしかしたらそういう所に本当にクールで代替のきかないヤリガイある仕事がおっこちているのかもしれない。

2012年2月10日金曜日

初めて宇宙に行った女の子を知ってるか?


彼女はライカ、またはクドリャフカ.  世界で初めて軌道を周回した女の子.

クドリャフカは小さな犬だった
記録が古いせいか
クドの犬種はわからない
誰かは「雑種」だと言い
また誰かは「ライカ犬」だ
「ハスキー」だ「サモエド」だと言う

ASIAN KUNG-FU GENERATION が好きなんだけど、youtubeをうろうろしてたらこのフラッシュを見つけた. 「ライカ」と言う曲は好きな曲の一つなんだけど、基本的に歌詞に関心のないぼくは初めてこの曲の意味を知った. まあ、こちらの動画を観てから読んだほうが手っ取り早いかもしれない.



1957年11月3日 ソ連のスプートニク2号は彼女を乗せて宇宙へと打ち上げられた.

当時研究所ではクドと同じく
小さな雌の犬が20頭以上訓練されていたという
彼女たちは
ロケットで高度200kmまで打ち上げられ
パラシュートで降りてくる訓練や
数週間小さな気密室に閉じこめられるという
訓練を何度も受けてきた
その犬たちの中で最も
訓練の成績、体調などが良かったのが
クドリャフカだったのである




彼女を乗せたスプートニク2号は1958年4月14日、大気圏再突入と共に崩壊した.
大気圏再突入が出来る設計ではなかったのだ.
彼女の心拍数などを図る計器と10日分の食料を乗せて打ち上げられた.

彼女にとって最後の最後の食事は
いつも通りチューブで直接のどに押し込められた
睡眠薬と毒物入り特別食
酸素がなくなる前に
苦しまずに殺すという人間の「配慮」であった
彼女が苦しんで死んだのか
眠るように死んだのか
それは誰にもわからない
彼女の死を見届けたのは
命をデータ化する機械だけなのだから

このフラッシュは感傷的な気分になるようになるように作られている. 初めて観たときは好きな曲と言う事もあいまって「( ;∀;)イイハナシダナー」状態だったが、色々知りたくなって検索をしてみた.


当初、ソ連が発表した事実は、フラッシュにもある通り彼女は打ち上げから10日後に毒入りの餌によって安楽死させられたと言う事だ。
しかし、1999年には彼女はキャビンの加熱により打ち上げから4日後に死んでいたと報じられた. 
はたまたその3年後には、ディミトリ・マラシェンコフという当時の関係者が、実は彼女は打ち上げの数時間後に加熱とストレスで死んでいたと発表した. 結局、よく分かっていないのだ.


フラッシュの冒頭にも

ライカ、またはクドリャフカに関しては近年、死亡時期などの定説が大きく覆されつつあり実際にどうだったかは未だに明確にされていません.よって作品中の表現が必ずしも真実基づいているという保障はありません
しかし、それによってこれらのFlashや音楽の価値が失われる事は決してないと考えます.


とある. 
少なくともぼくの様な教養の足らない人間がこうして幾つか調べ物をする契機にはなったと言う事だ.  この曲の歌詞は コチラ など.

2012年2月8日水曜日

所得格差は文化や地理的要因で説明出来るか? Acemoglu Interview (1) Rethinking the Wealth of Nations


前回に引き続き Acemoglu のインタヴューを見てみよう。こちらは " Rethinking the Wealth of Nations" と題されたインタヴューの最初の動画だ。この動画で彼が答えている質問はこれだ。


"Why differences in prosperity among countries cannot be explained by simply by differences in geography or differences in culture? "

世界には未だにぶったまげるレベルで貧しい国がある。一方で私たちが住む先進国はまあ比較的豊かな生活を送る事ができている。この豊かさの起源とは何であろうかとは社会科学につきつけられている重要な問いかけだ。


■地理的要因で説明出来るか?



貧しいのは地理的要因のせいだって言うのはよく出てくる説明だ。地理的要因って言うとあげればキリがない。

農業生産に向かない天候の国だってある。輸送コストを考えると運河や港がある方が有利だが、これらが無い国も多い。クソ暑かったりクソ寒かったりすると労働者の生産性も落ちそうだ。熱帯地方だと伝染病が露骨に生産性を下げるだろうし、そもそも人的資本蓄積を阻害しそうだ(子供がガンガンしんだら元も子もない)予防に余計なコストを払わなくてはならないって言うのも不利だ。

さて、確かにこうした地理的要素は国が豊かになる事を阻害するが、この技術進歩目覚しい現代において埋まらない所得格差を説明しきるだけの説明力を持つだろうか?

ありがとう農学部、ありがとう工学部、ありがとう理学部etc.
現代の技術は以上にあげた地理的要因を乗り越えて様々な環境で様々なものを生産することを可能にしつつある。500年以上前は外生的にあたえられた地理的要因が農業生産の成果を決定的に決めていたが現代はそうではない。北海道でマンゴーを作る事 もできるし 砂漠で農業生産 に取り組み輸出国となっている国だってある。

何よりここ2,300年経済成長を牽引してきたものは農業ではない。それは産業革命以来の工業化だし、より現代に近づいてからは金融やITを始めとするサービスセクターの拡大だ。以上のような事を鑑みると地理的要因でこの埋まらない所得格差を説明し切ることは出来なさそうだ。


■文化の違いで説明できるか?


プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神 (一度も読んだことが無いことを告白しておこう )や 儒教・仏教など宗教や特定の地域に共有されている価値観などが経済発展を決定的に方向づけると言う意見も人気だ。

こうした文化と呼ばれるものが経済発展において重要な役割を担う事は認めているようだが、やはり彼は制度と言う物を強調したいようだ。彼は繰り返し attitude と言う言葉を用いているが文化は、人々の制度に対するスタンスに影響を与えるようだ。市場システムを信じるのか、独裁制や民主制に関してどの様に考えるのか。

しかしながら、実証的には宗教や文化に幾つかのプロキシーを立てて説明変数とし所得格差を説明しようとしても有意性が出ないことを彼は確認している。
分かりやすい反例は韓国と北朝鮮、香港・シンガポール・台湾と中国などの対比だ。これらの国は文化的にも民族的にも非常に共通したものを持っている。しかしながら、その豊かさは大きく異なる。異なるは何だろうと考えると政治的経済的な制度の違いだ。こうした制度の内生的な決定は何によってもたらされるだろう。少なくとも文化だけで処理は出来ないと彼は考えていそうだ。

2012年2月6日月曜日

アメリカはその地位を中国に明け渡すか? Acemoglu Interview (1) Innovation and Prosperity in the U.S.


Daron Acemoglu は MIT で経済学を教えている教授で、AER や QJE, JPE など一流のジャーナルに物凄い数の論文を掲載しまくっている研究者。経済成長理論や労働経済、政治経済学などを専門にしている。

彼が2000年以降、関心を強めているのが制度と豊かさの関係だ。彼に言わせると豊かな国と貧しい国を分かつ決定的な要因は(政治的・経済的な)制度の違いだそうだ。Innovation and Prosperity in the U.S. と題されたこの5分程度の動画では以下の質問に答えている。


" Will the U.S. lose its superpower status to China? "

彼に言わせると、取り敢えずこの先 several decades はそんな事は無いとの事だ。

アメリカは政治的にも経済的にも制度の質を高いものへと発展させてきてる。こうした制度は何かチャレンジをしようとする人々を増やし、新たなイノベーションの発生を促進し、より豊かな国になる様に働きかける。技術進歩と経済成長の関係を分析する内生的成長理論およびpolitical economy を専門とする彼らしい考え方だ。

経済的な制度は資源配分やそれに基づく競争環境を規定する。一方、政治的な制度は権力の所在とそれが如何に制限されるかを規定する。政治的な制度が脆弱であると一部の権力者による収奪が起きたり、そうした権力を奪取すべく内紛が起きたりする。また、経済学的には望ましくない政策が採択されたりもする。そのため、非常に不安定な経済環境に陥り成長が阻害されやすくなる。こうした側面から評価してみるとアメリカはgrowth enhancingで柔軟性のある制度を持っていると言える。

一方、成長著しいものの依然として communist system を採用している中国はどうか。
確かに中国政府は millions, billions の人々をイノベーションを生み出す仕事や質の高い大学、他国の技術を取り込む仕事にぶち込もうと躍起になっているが、実際にイノベーションが引き起こされるには政治的にも社会的にも、そして経済的にもより開かれた環境が築かれる必要があると述べている。
イノベーションの源泉となるR&D投資が行われる健全な競争環境(及び適度に独占利潤が守られる特許制度など)も必要だし、知識のスピルオーバーが円滑に行われる環境(オープンな貿易、スピルオーバーの伴うFDI、高付加価値の研究者の流出入etc)も成長にとって重要だ。標準的な成長理論から考えると、こうしたことをより開かれた環境と言っているのかもしれない。

2012年1月1日日曜日

研ぎ澄ます

あけましておめでとうございます。
年も明けたということで、ここでは今年の抱負でもばやっと書いていきたいと思います。

■昨年を振り返ると

実に散漫な一年だっと言うのが個人的な感想です。よくよく思い出すと年初に一年の目標は立てていなかったようです。昨年あった一番大きい出来事は来年から働く場所が決まったことですが、それを抜かすと気が赴くままにフラフラと生活していました。

読みたい時に読みたいものを読み、逢いたい時に逢いたい人にあい、使いたいようにお金をつかい、研究したいことを研究してと行き当たりばったりにリソースを配分していました。昨年末、一年を終えてその年になしたことを振り返ると思った以上に成果は少なく、そもそも年初に到達目標を立てていなかったために評価もほぼ出来ないというものでした。

目的意識が希薄にリソースを分散するとリターンも少ないと体感するには、一年という時間は十分すぎるお勉強代だったと思います。


■今年は

もう少しシステマティックに生活していこうと思います。元来、計画を立てる事が大好きな性格ですし、これまでもその様に生活してきましたが昨年が例外でした。今年はいつもより意識的に計画を立て、それに身をまかせると言う生活方式をとっていこうと思います。

研ぎ澄ます一年にします。
今年からはコンサルティング業界に放りこまれ必然的に時間の制約がタイトになってきます。

今、わたしが優先して伸ばすべき能力は何か?
今、わたしが時間を割くべき人はだれか?
今、わたしがしたいことは何か?

研ぎ澄ますという事は選択するということだと思います。すべてを採用する、もしくは降ってきた順に採択するという事は選択とは言いません。選択するということは何かを選び、そして何かを選ばないことです。大事にしたい事を仮説でもいいから明確にし、そして選んでいきたいと思います。


■より細かい行動計画は

どっかに立てるとして気分としては今年はこんな感じで行きたいと思います。
ようやっと社会人一年目ですが、いつもよりも素直に実直に、そして少しクレバーさを携えて行きたいと思います。

今年もどうかよろしくお願いします。