2012年2月8日水曜日

所得格差は文化や地理的要因で説明出来るか? Acemoglu Interview (1) Rethinking the Wealth of Nations


前回に引き続き Acemoglu のインタヴューを見てみよう。こちらは " Rethinking the Wealth of Nations" と題されたインタヴューの最初の動画だ。この動画で彼が答えている質問はこれだ。


"Why differences in prosperity among countries cannot be explained by simply by differences in geography or differences in culture? "

世界には未だにぶったまげるレベルで貧しい国がある。一方で私たちが住む先進国はまあ比較的豊かな生活を送る事ができている。この豊かさの起源とは何であろうかとは社会科学につきつけられている重要な問いかけだ。


■地理的要因で説明出来るか?



貧しいのは地理的要因のせいだって言うのはよく出てくる説明だ。地理的要因って言うとあげればキリがない。

農業生産に向かない天候の国だってある。輸送コストを考えると運河や港がある方が有利だが、これらが無い国も多い。クソ暑かったりクソ寒かったりすると労働者の生産性も落ちそうだ。熱帯地方だと伝染病が露骨に生産性を下げるだろうし、そもそも人的資本蓄積を阻害しそうだ(子供がガンガンしんだら元も子もない)予防に余計なコストを払わなくてはならないって言うのも不利だ。

さて、確かにこうした地理的要素は国が豊かになる事を阻害するが、この技術進歩目覚しい現代において埋まらない所得格差を説明しきるだけの説明力を持つだろうか?

ありがとう農学部、ありがとう工学部、ありがとう理学部etc.
現代の技術は以上にあげた地理的要因を乗り越えて様々な環境で様々なものを生産することを可能にしつつある。500年以上前は外生的にあたえられた地理的要因が農業生産の成果を決定的に決めていたが現代はそうではない。北海道でマンゴーを作る事 もできるし 砂漠で農業生産 に取り組み輸出国となっている国だってある。

何よりここ2,300年経済成長を牽引してきたものは農業ではない。それは産業革命以来の工業化だし、より現代に近づいてからは金融やITを始めとするサービスセクターの拡大だ。以上のような事を鑑みると地理的要因でこの埋まらない所得格差を説明し切ることは出来なさそうだ。


■文化の違いで説明できるか?


プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神 (一度も読んだことが無いことを告白しておこう )や 儒教・仏教など宗教や特定の地域に共有されている価値観などが経済発展を決定的に方向づけると言う意見も人気だ。

こうした文化と呼ばれるものが経済発展において重要な役割を担う事は認めているようだが、やはり彼は制度と言う物を強調したいようだ。彼は繰り返し attitude と言う言葉を用いているが文化は、人々の制度に対するスタンスに影響を与えるようだ。市場システムを信じるのか、独裁制や民主制に関してどの様に考えるのか。

しかしながら、実証的には宗教や文化に幾つかのプロキシーを立てて説明変数とし所得格差を説明しようとしても有意性が出ないことを彼は確認している。
分かりやすい反例は韓国と北朝鮮、香港・シンガポール・台湾と中国などの対比だ。これらの国は文化的にも民族的にも非常に共通したものを持っている。しかしながら、その豊かさは大きく異なる。異なるは何だろうと考えると政治的経済的な制度の違いだ。こうした制度の内生的な決定は何によってもたらされるだろう。少なくとも文化だけで処理は出来ないと彼は考えていそうだ。

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