2012年3月27日火曜日

芸術と産業としての香水:ジャン・クロード・エレナ(Jean Claude Ellena) のお話


先日、調香師ジャン=クロード・エレナの本を読んだのでそのレビューをした。
調香師というプロフェッショナルな世界:ジャン=クロード・エレナを知ってるか?
図書館から借りてきた本で返却が近づいてきたので、気にった箇所を抜粋して振り返ってみよう。

この時代、高級香水の世界は、直観的な商品化、香水名と香水そのものに対する信仰、限定生産というやり方から、「需要」のマーケティングへと移行した。直観的な商品化の特徴は、ライフスタイルに応じてターゲットにする社会階層を選ぶことである。「需要」のマーケティングでは、競合製品、市場、文化・経済・社会環境を分析する。陶酔、幻想、パッションといったものを記号やシンボルのかたちに具体化して、欲望の対象をつくる、これがマーケティングの戦略だ。(P19)

「この時代」は1970年代を指す。最初の章では、産業としての香水がどのように発展してきたかが振り返られる。19世紀末の香水は、バラやジャスミンと言った実在する匂いの単なる模倣に過ぎなかったが、徐々に人々の「需要」に応じて、ライフスタイルに応じて、より複雑でイメージを掻き立てられる香水が作られるようになって来たことが分かる。

ひとつの素材のクオリティーのおかげで、ひとつのフレグランスが独創的になるということはあるかもしれない。だが、いずれにせよ、「美しい」ジャスミン、「美しい」バラ、「美しい」合成分子が美しい香水をつくるのではない。香水の美しさは、原材料の足し算から生まれない。原料や素材を理解し、使い、並置し、そして原料や素材に自分を再現させる、そこから、香水の美しさが生まれる。(P48)

「美しい」原料を使ったからと言って「美しい」香水が出来るわけではない点は、「美しい」染料を使っても「美しい」絵画が出来る訳ではない、「美しい」音を奏でる奏者を並べても「美しい」音楽が生まれる訳ではない点と共通だ。そこにこそ調香師、画家、作曲家の価値がある。この本の中でエレナは「匂いの作曲家」たりたいと書いているがまさにその通りだ。

この本の中では、彼が新たな香水を作るときにどの様に着想を得、どういった考えに基づいて香水を想像しているのか、エルメスの「庭シリーズ」を引き合いに説明している。少し長くなったので、これに関しては次回に回そう。

Hermesの「ナイルの庭」はどの様に生まれたか

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