2012年4月7日土曜日

Why nations fail? 発売記念パピコ/(^o^)\ 制度は豊かさを決めるんだ!


Acemoglu  と Robinson が 三月に Why nations fail? " を出版した。

『各国の長期的な経済発展の違いは本質的に何によって齎されるのか?』
彼らは制度と言う観点からこの十年間、以上の問いに答えるべく研究を積み重ねてきている。その研究成果を一般向けの書籍として纏めたのがこの本だ。

経済成長モデルはソローの新古典派成長モデルから始まり、最適成長モデルへと精緻化が進み、90年に入る頃には長期的な成長要因である技術革新のプロセスを内生的に成長モデルに組み込む事となった。

こうした成長モデルは『物的資本蓄積するから』『人的資本蓄積するから』『技術革新が活発に行われるから』経済成長をすると言うことを特定した。実証的にはバロー流の新古典派成長モデルの推計を始め、こうした基本的な事実を実証的にサポートする論文が山の様に書かれることとなった。


さて、どうやら物的資本や人的資本が蓄積され、活発に技術進歩を行えば高い確立で『離陸』出来るらしい。では、『なぜ、人的、物的資本投資を行わないのか?技術革新を行わないのか?』と言う疑問が生じる。

確かに、投資が過少になる均衡が生じる複数均衡モデルや市場の失敗を取り込む事でこうした事象を説明するモデルは山のようにあるが、彼らが着目したのは『制度』だ。『制度』こそ市場における行動を規定し、豊かさのパフォーマンスを決めると言うわけだ。物的、人的資本投資、研究開発投資を行えば成長することは分かっているが、制度が悪いからそうした行動を行うインセンティブを欠いていると言うのが彼らの主張だ。

と言うわけで次回は具体的にどんな研究をしたのか 有名な2001年の実証論文をレビューしてみよう。具体的には、制度の代理変数を説明変数に実質一人当たり所得を説明できるかトライした論文だ。例えば、こんな感じに。



(こちらは、各国の2005年の実質一人当たりGDPと Park (2005) の特許に関する制度指標を元に筆者作成)

果たして制度はどの程度、各国の所得格差を説明するのか?
制度を用いて単純にOLSをかけていいのか?
制度を説明変数に加えた時、これまで重要とされていた変数の効果はどうなるのか?

面白いトピックが盛り沢山だ。

2012年4月5日木曜日

100年予測を読んだった





地政学的な分析がどの様なものか気になったので手にとってみた。

本書は地政学的な分析に基づき21世紀の百年間でどの国が覇権を握り、どの国が超大国に戦いを挑むのかを示している。

本書が示す結論は、
・21世紀の間は相変わらずアメリカが世界の覇権国であり続ける事
・トルコと日本が覇権国アメリカに(宇宙!)戦争をしかける事
・中国は張り子のトラであること
が挙げられている。

人口動態やそれに基づく長期的な経済成長(国力)の予測、地理的な要因(ある地域の覇権を得るには陸海空、どういった要所を落とすべきか守るべきか)によって、それぞれの国の長期的な行動を予測している。

制海権が如何に重要なのか、このハイテク戦争の時代に案外地理的要因は効いて来るのかと言った観点は今まで持ち合わせてなかったため新たな気づきといえるが、出てくる主張の一つ一つに疑問を呈したく成る。

これはどんな理論に基づいているのか、実証的にサポートされているのか、そもそも実証の俎上にあげられる仮説になっているのか…

全体として言いっぱなし感が全開であり、「これは長期の予測であり、少々の誤差は瑣末なものだ」と言う正当化ではとてもカバーしきれないように思う。また、後半の宇宙戦争の下りにさしかかると最早読み続けるのが苦しいジョークになってくる。


やはりこう言った大きな風呂敷を広げず、問題・仮説を丁寧に分割し、実証的な結果を積み重ねていく事が肝要なのかと改めて感じさせられた点では役にたったと言える。

2012年4月4日水曜日

ペースとデバイス


働き出して二日が経ちました。と言ってもまだまだ退屈なオリエンテーションばかりで働いていると言った感じはありません。二日通ってみて通勤の具合も把握し生活のサイクルも分かってきた様に思います。

新しい環境に変わって取り組むべきは勉強をする場所、勉強をするペースを確立する事がでしょうか。多くの人がそうである(そのように願ってますが)様に、僕も大概怠惰であり何かしら自分を縛り付けるコミットメントデバイスか強いインセンティブがないと勉強できないものです。

まずは研修のこの一ヶ月間、どこでどの時間帯で勉強する時間を捻出し、気持よく取り組めるかさっさと考えてしまわないとなと感じてます。
ちなみにこの二日間は、帰宅後の自宅では勉強など出来ないというこれまでの生活で繰り返しテストされてきた実証的な結論を補強することなりました。生活が変わったところで構造変化はなかったようです。




大学院の頃は大学の近くのスタバを頻繁に利用していました。研究室の日当たりが悪いことや空気が淀んでいる事からスタバで勉強することが非常に多かったです。そのうち、刷り込みが完了しスタバに行くと勉強モードになると言う風になりました。

「勉強するのにスタバ通ってて金かかるねコーヒーなら研究室で安く飲めるよ!」とは良く言われたものですが、対価はコーヒーではなくこの刷り込みに払っていたのです。怠惰でdiscount rateも高めな私のような人間は勉強するにもより多くのコストがかかるのです笑。

どこかココに行くと勉強モードに変われる場所と言うものを早く作ってしまうのが良いって事でしょうね。

経済成長のミステリー



経済成長理論とその実証研究、ならびに近年より研究が進んできている不平等や制度と経済成長の関係についてサーベイを行っている。タイトルのからして以下にも一般図書の様だが、実際は先行研究のサーベイとなっているので経済学専攻の人が見た方がいいだろう。

この本は経済成長理論の発展と同じように章だてされている。

技術進歩を外生とおいた初期の成長理論のサーベイと実証的結論(条件付き収束、絶対収束など)を論じる。次に生産性と内生的成長理論を俯瞰する。最後の3つの章は、開放体系における成長理論、不平等、制度で構成される。

開放体系の成長理論では、技術の模倣やスピルオーバーについて紙面を割いている。不平等の章では、特に所得の分散が大きくなることが経済成長にどのように影響するのか実証研究をサーベイしている。最後の制度と経済成長は2000年以降、Acemoglu や LaPortaらが研究を進めている分野だが日本語のサーベイは少ないので有用だろう。


本書の出版は2004年であったのでやむを得ないが制度と経済成長に関する研究は理論実証ともに2000年代後半も急激に増えている。その意味ではこの本でカバーされていない範囲は広い。例えば、所得格差と制度の関係を論じる研究はAcemogluらが2005年あたりから進めているし、開放体系におけるスピルオーバーと制度の関係はHelpmanが行っている。また、当初は制度と経済成長に関する実証的なファクトを積み上げる研究が多かったものの制度と成長に関する理論研究も精力的に行われている(例えば制度の経路依存性に関する理論的な根拠をAcemogluは書いている)。


とまあ邦書がまだまだ少ない分、きっかけとしては有用だが扱っている範囲は狭いなと言った印象。
また既存研究のサーベイもボリュームやチョイスを見る限り Handbook of Economic Growth でいいのではないかと 思うところもあり立ち位置が微妙な本だなあと言うのが正直な感想。