2012年4月4日水曜日

経済成長のミステリー



経済成長理論とその実証研究、ならびに近年より研究が進んできている不平等や制度と経済成長の関係についてサーベイを行っている。タイトルのからして以下にも一般図書の様だが、実際は先行研究のサーベイとなっているので経済学専攻の人が見た方がいいだろう。

この本は経済成長理論の発展と同じように章だてされている。

技術進歩を外生とおいた初期の成長理論のサーベイと実証的結論(条件付き収束、絶対収束など)を論じる。次に生産性と内生的成長理論を俯瞰する。最後の3つの章は、開放体系における成長理論、不平等、制度で構成される。

開放体系の成長理論では、技術の模倣やスピルオーバーについて紙面を割いている。不平等の章では、特に所得の分散が大きくなることが経済成長にどのように影響するのか実証研究をサーベイしている。最後の制度と経済成長は2000年以降、Acemoglu や LaPortaらが研究を進めている分野だが日本語のサーベイは少ないので有用だろう。


本書の出版は2004年であったのでやむを得ないが制度と経済成長に関する研究は理論実証ともに2000年代後半も急激に増えている。その意味ではこの本でカバーされていない範囲は広い。例えば、所得格差と制度の関係を論じる研究はAcemogluらが2005年あたりから進めているし、開放体系におけるスピルオーバーと制度の関係はHelpmanが行っている。また、当初は制度と経済成長に関する実証的なファクトを積み上げる研究が多かったものの制度と成長に関する理論研究も精力的に行われている(例えば制度の経路依存性に関する理論的な根拠をAcemogluは書いている)。


とまあ邦書がまだまだ少ない分、きっかけとしては有用だが扱っている範囲は狭いなと言った印象。
また既存研究のサーベイもボリュームやチョイスを見る限り Handbook of Economic Growth でいいのではないかと 思うところもあり立ち位置が微妙な本だなあと言うのが正直な感想。

0 件のコメント:

コメントを投稿